癌の鍼灸治療

癌の鍼灸治療

鍼灸治療のメカニズム

動物による研究では、神経に鍼刺激をすると、神経に栄養を送っている周りの血管の血液が増えたりします。また、動物の筋肉に鍼刺激すると筋肉内の毛細血管(細い血管)が増えるなどの報告がなされています。 鍼灸刺激の作用機序(どうして治っていくのか)として、化学療法(抗がん剤や放射線)などにより神経が障害を起こした神経を鍼刺激すると、血液の流が増えたり、壊れた神経や血管の再生力を高めたりすると考えられています。

がんの鍼灸治療の目的

  • 現代医学ではがんに対して、手術や放射線、抗がん剤を行います。東洋医学(鍼灸治療)はその人が本来持っている自然治癒力を高め、うまく働かない機能状態を改善させます。
  • 鍼灸治療では、副作用がほとんどなく、化学療法(抗がん剤や放射線)と併用したり鎮痛剤を同時使用することもできます。
  • 癌による痛み・便秘・倦怠感・むくみ(浮腫)・冷え・長期臥床で生じる筋肉の痛み、放射線・抗がん剤の副作用である吐き気などの軽減を目的に鍼灸治療が行われています。

 鍼灸治療の方法

  • 刺激の種類:鍼(はり)、お灸、低周波鍼通電、灸頭鍼、温灸
  • 刺激の量:①鍼の刺激 ②灸の刺激 ③鍼の刺激+灸の刺激 ④灸頭鍼の刺激 ⑤温熱の刺激
  • 刺激時間:身体の状態により変化する。 *刺激の量=刺激時間                         

がん治療に対して鍼灸治療の効果が期待できるもの

  • 抗がん剤による吐き気を抑えたり、痛みや疲労感・倦怠感などが軽減されます。
  • 抗がん剤の副作用による手や足のしびれや痛み(末梢神経障害)などを軽減
  • されます。

抗がん剤の副作用による手や足のしびれや痛みは、一般的に抗がん剤の服用をやめたから約1年くらいで軽減してくると言われています。鍼灸治療をすることで手や足のしびれや痛みの軽減を早められる可能性が考えられています。

現在、がん患者に対して鍼灸治療が行われている施設は、自治医科大学附属病院緩和ケア科、国立がんセンター中央病院、東京大学附属病院、埼玉医科大学病院東洋療科などで行われています。

私は、自治医科大学附属病院麻酔科外来で臨床に携わり緩和ケアで鍼灸治療(毎週火曜日外来担当)を行っています。

鍼灸治療は、副作用もなく抗がん剤による手や足のしびれや痛みの軽減、また、抗がん剤による吐き気を軽減させられる治療法です。手や足のしびれや痛み(末梢神経障害)、化学療法の副作用の吐き気で悩んでいる方は是非ご相談してみて下さい。

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治療例

消化器系

・食がん(頚部リンパ節転移)でみられた訴え(症状)として、首-肩の緊張・強い肩こり、喉の圧迫感・違和感、足のむくみ(浮腫)、肩の痛み(夜間起きてしまう)がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・胃がんでみられた訴え(症状)として、お尻から足の痛み、足の外側の痛み(しびれ)、嚥下障害、痰が出ずらい、全身疲労感、腕のしびれ、首―肩前面の付け根(烏口突起痛)がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・肝がん(進行性肝細胞)でみられた訴え(症状)として、鼻づまり、呼吸が苦しい、食欲不振、足のむくみ(浮腫)がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・すい臓がんでみられた訴え(症状)として、背中の痛み(左側が多い)、腰の痛み、便秘(骨転移による難治性疼痛)、食欲不振(胃部に不快感)がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・大腸癌・直腸癌・S状結腸癌でみられた訴え(症状)として、お尻から足の外側の痛み、腰の痛み、足の痛みしびれ、吐き気がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

婦人科系

・乳がんでみられた訴え(症状)として、首の後ろの痛み、肩こり、腕の痛み、背中から腰の痛み、 食用不振、便秘、吐き気がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・子宮頸がん(転移)でみられた訴え(症状)として、足のむくみ(浮腫)、息苦しさ(心臓の発作)、肩の張り・こり、腰から足の痛み、お尻の痛み、足の付け根のむくみ(リンパ浮腫)がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・卵巣癌でみられた訴え(症状)として、腰から尾骨の痛み、腹部手術跡の痛みがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。  

腎・泌尿器系

・膀胱腫瘍・尿管腫瘍でみられた訴え(症状)として、全身倦、側腹部の痛み 、足の感覚障害がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・腎臓がん手術後でみられた訴え(症状)として、背中の痛み(痛み増強)、吐き気がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

脳神経系

・脳腫瘍手術後でみられた訴え(症状)として、腕の痛み、足の痛みがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・聴神経腫瘍でみられた訴え(症状)として、顔面神経麻痺がありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

術後経過

・乳がん手術後でみられた訴え(症状)として、肩の痛み、腕のむくみ(リンパ浮腫)、手のむくみ、腕から脇の痛み、胸の痛み、手術あとの引きつりがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・卵巣がん手術後でみられた訴え(症状)として、肩の痛み・腰の痛みがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・口腔がん手術後でみられた訴え(症状)として、下あごのしびれがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

・食道がん手術後でみられた訴え(症状)として、背中の痛みがありました。それらの訴えに対して鍼灸治療を行っています。

国際統合がん学会で推奨される、補完医療としての鍼灸治療

国際学会が定めた利用指針

  • 痛みがうまくコントロールできていないとき、はり・きゅうは補完医療として薦められる。(1A)
  • 放射線照射による口内乾燥症に対し、はり・きゅうは補完医療として薦め
  • られる。(1B)
  • 心身療法は、不安、動揺、慢性の痛みの低減、生活の質を改善するために薦め
  • られる。 (1B)
  • サプリメントは、副作用およびほかの医薬品との相互作用について評価することが薦められる。ほかの医薬品との相互作用がありうるものは、化学療法や放射線療法と並行して、あるいは手術の前には用いられるべきではない。(1B)
  • すべてのがん患者に、補完代替医庶の使用について、尋ねるべきである。(1C)
  • 主流な治療の「代替」になるとして宣伝されている治療法は避けるように、患者に
  • アドバイスすることが薦められる。(1C)

*カッコ内は推奨度。推奨度は1、2の順で高く、A~Cは効果を示す科学的根拠の質を

 示す。推奨度2以下は省いた。

1A=強く薦める・質の高い根拠あり

1B=強く薦める・質の中程度の根拠あり

1C=強く薦める・質の低い根拠あり

 国際統合がん学会の「がんの統合医療ガイドライン」より

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